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明治大学の大学院時代には、大学に通いつつ、便利屋のアルバイトをやり、自民党の学生部にも所属しているというわけのわからない生活をしていた。

便利屋の仕事で、同じおばあちゃんから1年に2回、引越しの依頼を受けたことがあった。

羽村あたりに住んでいたそのおばあちゃんは、富士山が見える景色がきれいで自然に囲まれた場所に物件を買った。そこに移り住むのだということで、引越しの依頼があったのである。

おばあちゃんは一人暮らし。荷物はさほど多くなく、移動時間を含めても十分一日で仕事を終えることができた。まだ夏だったのだが、引越し先の場所はとても涼しくて、たくさんの自然に囲まれた場所だった。
それはよかったのだが、周りが森や林という人気のない場所で、買い物にお店に行くにも歩いて10分以上はかかる。今はいいが、冬になったらお年寄りがたった一人で大丈夫だろうかと、ふと思ったりもした。引越し先には物件を売却した不動産屋も来ていて、「店も歩けばすぐに行けるし、大丈夫です。とても景色が良くていいところでしょ」などと言っていた。

ただ確かに富士山が真正面に見える景色のいい場所だったので、おばあちゃんはとても満足げだった。

それから何か月も過ぎて、真冬の時期に再び便利屋の電話が鳴った。

そのおばあちゃんだ。付近が積雪に埋もれてしまい、外にも出られない。助けて欲しいというのである。

行ってみると腰の高さほども雪が積もり、その家に行くにも大変な状況だった。雪をかき分けかき分けおばあちゃんの家までたどり着くと、泣きそうなおばあちゃんが一人で待っていた。必死で救出し、おばあちゃんの知り合いの家に送り届けた。

雪が解ける春になって、再び便利屋の電話が鳴った。

そのおばあちゃんが、今度はその富士山の裾野から、もとにいた町にもどるための引越しを依頼してきたのだった。なぜその富士山の見える物件を買ったのかと尋ねてみると、どうも不動産屋にだまされたようで、話が違うことに、住んでみて気づいたらしい。

不動産屋は物件が売れれば、相手は誰でもよかったのだろう。季節のいい時期に別荘として使われていた物件をおばあちゃんに売ったのである。

不覚にも、冬にそれほどの積雪になり、生活そのものができなくなるほどの場所であることは、私たちも想像できなかった。

無事に引越しを終えて、私たちに温かいお茶を入れてくれたおばあちゃんのほっとした表情を、今でも憶えていて、時々思い出す。

安心して住む場所があり、生活するに不安なく生きていけることのささやかな幸せが表われている表情だった。

今はもうとっくにそのおばあちゃんは亡くなっていることだろうが、その後の余生をどのように送られたのだろうかと、ふと考えたりするのである。

一往復の引越しを手伝っただけのこのおばあちゃんのことは、なぜかとてもよく憶えている。

ついでに、そのおばあちゃんを騙した悪徳不動産屋の顔も、なぜか鮮明に憶えているのである。



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