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kのノートの次のページをめくった。

「世界で一番強いものは、ただ一人立つものなのだ」という言葉が書かれてあった。


私がkと初めて会ったのは、大学1年生の初夏の頃だ。

大学の生協の本屋で、私が一人本を探していると、同じような格好で本を探している学生を見つけた。

私は大学に入学してから、毎日のようにコンパやサークルの飲み会に参加し、遊びまくっていた。バカ騒ぎをして一気飲みをして、カラオケを歌い。

そんな生活にも飽きてきたのか、サークルのコンパのあと一人で歩いて下宿に向かっているときに、言い知れない虚しさと孤独を感じたことがあった。

毎日がお祭りのような大学生活で、私のようなことを感じている学生がどれほどいたのかわからなかったが、結局人間はただ大勢の人間と一緒にいるだけでは、決して心からの幸せや充実を得ることができないということだけはわかった。

そのころから哲学や思想関係の本を読むようになって、文学や歴史の本もひもとき、自分の今後の人生の方向性を真剣に考えるようになった。

Kも私が探していた本と同じジャンルの本棚を食い入るように見つめていた。

私はKが自分と同じクラスであることはわかっていた。顔だけは新入生のガイダンスの時に見た記憶があったからだ。

本棚の前で、それとなく話しかけたのが、Kと私の最初のコンタクトの瞬間だった。

Kはあまり流暢にしゃべる方ではなく、自分の出身高校のことや、住んでいる場所、どんな本を読んでいるのか、また将来はどんな方向に進みたい、などということをゆっくりと話してくれた。

とても穏やかで落ち着いた口調だ。

あるフランスの詩人が大好きで、その詩集を愛読しているということだった。

私は、Kをもっと理解するために、その詩人の詩集を文庫で手に入れて、時々読んでみたりしていた。

Kもまた、クラスになじめず、なかなか友達ができず、大学に入学してから、色々なことに迷いが生じたようであったし、それを自分なりに解決するために、たくさんの本を読み始めたのである。

たくさんの人を理解し、たくさんの人に理解される人間が、一番強い人間だと、今の私は思う。

しかし、自分の核を作るべき学生時代に、孤独を恐れて周りに流され、自己を失うことは、人生の中で大きな機会を失うことになるのだとも思う。

すでにこの時Kはこのようなことを考えていたのかもしれなかった。

この生協の本屋の最初の出会いから、私とKの関わりは、卒業以降も続くことになった。

私とKが語る場所はいつも、生協の本屋の本棚の前。

そこで1時間ばかりも立ち話をして別れる。卒業までそれが続き、一緒に遊びに行ったり、お酒を飲みに行ったりしたことは一度もなかった。

いつも偶然に本屋でかち合った時だけが、Kと私の会話の機会だった。


「世界で一番強いものは、ただ一人立つものなのだ」


Kはそうであることを望んでいたのかどうか。

今となってはその答えを聞くことはできない。









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